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1−1.大阪湾の歴史的、地理的位置
関西経済の深層的基盤
古代の大阪湾は日本列島の中で絶妙の位置を占めて、最も豊かな地域の一つとして、日本人社会を支え、君臨していた。その最も豊かな地域の軸は、いうまでもなく瀬戸内海水運であった。とくに技術力、経済力が低く、天文航法すらとれないでいた。つい100年前までのわが国の社会にとって、小舟でも安全かつ正確に航行できる瀬戸内海は、他の海域や陸上交通路に比して、優れた条件を有していた。
しかも、その延長線上には高い文化を形成し、先進的文物を流してくれた朝鮮半島や中国大陸があり、江戸時代には航路が体系化して、日本列島2000年の歴史の中で瀬戸内海は日本及び周辺国際交通まで含んだ全交通体系のすべてを収束した一大交通軸であった。
大阪湾は、その発着点でもあった。日本歴史の中で、長い間近畿に首府がおかれていたのは、こうした優れた交通地理条件に負うところが大きい。
この結果、大阪は名実ともに全国における商品流通の拠点となり、わが国近代化の礎ともいうべき商業資本の蓄積が進み、今日の関西経済の基礎をつくり上げた。
同時に関西経済を生み、育て上げてきた大阪湾は「国土の基幹交通ターミナル」と「瀬戸内海水運」の二つの社会的機能は「大阪湾ベイエリア」の将来像と、現状での課題解析を、この二つの社会機能軸にして考えるべきと思う。
1−2交通変革と大阪湾
近代社会の中での大阪湾の条件変化
近代化を迎え、新しい近代社会としての地域形成の歩みはじめたのは1世紀余り前である。この変化は新たに鉄道という強力な陸上交通の出現と、帆船から蒸気船へという海運再編を通して進められた。この結果、絶対的優位を誇った大阪湾に影響を与えることとなる。
産業革命以降、急成長路線を歩む日本経済の中で、第2次世界大戦前まで、日本一の工業地帯を阪神に形成させ、関西経済を構築して、隆盛を誇っていた。
しかし、交通体系の中で、鉄道が主役の座を占めるようになると、鉄道ネットワーク形成上、大平野を背景にもった東京の位置は格段と有利になる地形的にも東京は各方面からの鉄道結節点となる。
一方、海運の蒸気船化は、船舶大型化を実現させ、外海のもつ波浪条件を相対的に小さくした。その結果帆船交通時代は、瀬戸内海をもって絶対的優位な条件を誇っていた大阪湾の位置づけを、相対的に低下させた。東京湾はこれにより、大阪湾に匹敵する港湾集積をみることになる。近代化に伴う交通変革は、総対的に東京及び関東の条件を大きく上昇させた。
第2次世界大戦後、第二の交通変革が起った。この変革は基礎エネルギーが石炭から石油へと変化し、石油文明時代の中心交通は航空と自動車で、大型空港と高速道路が地域の浮沈に大きく影響することになった。
昭和30年代に入り、日本経済は復興から成長路線へと重化学工業化の進展で、この第二の交通革命が進展した。
しかし、重化学工業化時代が終り、工業が先端技術工業が、社会的には金融・サービスという第3次産業化が進み、情報の重要性が増大し、情報時代の到来であるこれにより航空機と自動車が本領を発揮するのに対し、海運と港湾は伸び悩み、相対的にその重要性を次第に小さくしていった。
以上のように大阪湾を考える評価も、石油危機を境にした状況変化により、大きく変化していく。
大阪湾はいま脱工業化の基本的な波の中で、新しい交通情報に支えられる日本列島における位置づけを新にしようとしている。しかし、今までの大阪湾は帆船時代、蒸気船時代、重化学工業時代、いずれも経済社会の主役交通である海運を軸にしてきた。現在、直面している変化の基調は、海運以外の新しい軸として何を加えるか、という変化のように思える。大規模国際空港(関西国際空港)の機能を大阪湾にもたせ、新しい衣更えは進んだが、これだけではなさそうだと、いうところに新しい歴史の陣痛があるといえる。
1−3大阪湾ベイエリアとその基本体質
時代時代に合わせて、大阪湾がいかに変化したとしても、陸域がこれに反応しなければ、人々の生活と直結することはできない。「大阪湾ベイエリア」は、まさしく大阪湾と一体不可分に直接的に機能する地域である。
つまり、大阪湾ベイエリアは大阪に本格的な「湊まち」が建設されて以来、4世紀余りにわたる大阪湾の変容に合わせて変化発展してきた、沿岸域の積重ねによりできた一種の重曹地域だということもできる。
しかし、この重曹地域は歴史の流れの中で、常に変化し、土地利用を考え、市街再編し、大局的には常に新しい機能とエネルギーを蓄えつつ塗り変わってきた。そしていま再び、大きく塗り変わらなければならない時を迎えている。
大都市の地域構造は、都心を核にして原則的に同心円構造を形成し、都市発展ととともに、その円が次第に膨張してくるといわれている。したがって、明治以降1世紀余りの大阪ベイエリアは都市の拡大により背後から押し寄せるエネルギーと、前面の大阪湾から押し寄せるエネルギーの混合し、渦巻く空間であったと考えるべきである。

 

 

 

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